坐骨神経痛の鑑別診断及び診察

1. 基礎知識

定義:
坐骨神経痛とは「腰椎から出る神経根〜臀部〜下肢後面にかけて放散する痛み・しびれ」を指す症候名であり、疾患名ではない。
原因は主に神経根性か**梨状筋性(末梢性)**に分けられる。

主な原因疾患:

  • 腰椎椎間板ヘルニア(L4/5、L5/S1)
  • 腰部脊柱管狭窄症
  • 梨状筋症候群
  • 変形性腰椎症、腰椎すべり症
  • 椎間関節性腰痛
  • 仙腸関節障害

2. 問診ポイント

  • 痛みの部位:臀部〜下肢後面〜足底
  • 痛みの性状:鋭い放散痛 or ジンジンしたしびれ
  • 姿勢による変化:前屈・座位で悪化=ヘルニア系、立位・歩行で悪化=狭窄症系
  • 排尿・排便障害の有無(馬尾症候群の除外)

3. 視診・触診・動作評価

  • **立位姿勢観察:**骨盤傾斜、脊柱側弯、抗痛性姿勢の有無
  • **SLRテスト(下肢伸展挙上試験):**陽性なら神経根圧迫疑い
  • **FNSテスト(大腿神経伸展):**上位腰椎障害(L3-L4)を示唆
  • **梨状筋テスト(FAIRテスト・Paceテスト):**末梢性圧迫を示唆
  • **触診:**坐骨結節・梨状筋・仙腸関節の圧痛確認

4. 鑑別の流れ(フローチャート)

【坐骨神経痛の評価フローチャート】

① 下肢後面の痛み or しびれを訴える
   ↓
② 腰部に関連痛あり?
  → YES:腰椎性を疑う
    ↓
    ・SLR、FNSテスト陽性?
      → YES:神経根性(ヘルニア・狭窄症)
      → NO :椎間関節性 or 仙腸関節性を考慮
  → NO:末梢性を疑う
    ↓
    ・梨状筋圧痛あり?FAIRテスト陽性?
      → YES:梨状筋症候群
      → NO :ハムストリング過緊張、坐骨周囲筋の拘縮
   ↓
③ 神経学的検査(反射・筋力・知覚)
  ・L5支配:足趾背屈、母趾背屈
  ・S1支配:足底屈、アキレス反射
   ↓
④ 画像評価(必要時):MRI、X線など
   ↓
⑤ 緊急兆候あり?(膀胱直腸障害、急激な筋力低下)
  → YES:医療機関紹介
  → NO :保存的施術へ

5. 施術方針

① 急性期(疼痛強い場合)

  • 安静保持、温熱・微弱電流などで鎮痛
  • 炎症期を見極めて過度なストレッチは避ける
  • 抗重力姿勢を保ちやすい体位(膝立ち・側臥位)指導

② 亜急性〜慢性期

  • 梨状筋、ハムストリング、腰方形筋の筋緊張を緩和
  • 骨盤・仙腸関節のモビライゼーション
  • 骨盤帯・コアの安定化エクササイズ
    • クロックエクササイズ、ブリッジ、キャット&ドッグ
  • 姿勢・動作指導(特に長時間座位姿勢の修正)

③ 再発予防期

  • 体幹筋(特に多裂筋・腹横筋)の機能回復
  • 生活動作改善:イスの高さ、デスク環境、股関節可動性の確保
  • 筋膜リリース or ストレッチ習慣の定着支援

6. 施術時の注意点

  • 急性腰痛に対し強刺激は禁忌
  • 痺れや放散痛が増強する施術は即中止
  • 坐骨神経走行部(梨状筋下方)の過度な圧迫を避ける
  • 患者教育を重視:「坐骨神経痛=病名ではない」ことを伝え、原因特定型のアプローチへ導く

7. 患者説明用ワンポイント

坐骨神経痛は「結果」であり「原因」は腰や骨盤、筋肉に隠れています。
痛みを抑えるだけでなく、神経を圧迫している要因を取り除くことが根本改善につながります。