ぎっくり腰の鑑別及び診察

【ぎっくり腰(急性腰痛症)】


1. 定義・概要

「ぎっくり腰」は、正式名称で急性腰痛症(acute low back pain)
急な動作や負荷によって腰部に鋭い痛みを生じる状態で、筋肉・筋膜・椎間関節・椎間板・靭帯などの損傷を総称して呼ばれます。
欧米では「魔女の一撃(witch’s shot)」とも呼ばれるほど、突然の強い痛みを特徴とします。


2. 原因と病態

ぎっくり腰の原因は単一ではなく、以下のような複合的要因が関与します。

  • 筋・筋膜性腰痛:中腰や急な伸展で筋線維や筋膜が微細損傷
  • 椎間関節性腰痛:関節包の捻挫や関節周囲組織の炎症
  • 椎間板由来:急な圧負荷による椎間板の内圧上昇、線維輪の裂傷
  • 仙腸関節障害:片脚重心や捻りで仙腸関節にズレが生じる
  • その他:脊柱起立筋の過緊張、冷えによる筋血流低下、睡眠・疲労・ストレスによる筋緊張亢進

3. 主な症状

  • 腰部の突然の激痛(動作開始時に出現)
  • 立位・歩行・前屈・寝返り困難
  • 安静で軽減するが、再度動くと再燃
  • 放散痛がある場合は神経根症状の可能性あり(要鑑別)

4. 鑑別すべき疾患

ぎっくり腰と似た症状でも、以下の疾患は重大な鑑別対象となります。

疾患特徴的所見注意点
腰椎椎間板ヘルニア下肢放散痛、SLRテスト陽性若年~中年男性に多い
脊柱管狭窄症歩行時の下肢しびれ、間欠性跛行中高年に多い
圧迫骨折高齢者、外傷後の局所圧痛骨粗鬆症に注意
腎盂腎炎・尿路結石発熱・血尿・側腹部痛内臓由来痛の可能性
腹部大動脈瘤拍動性の腰背部痛生命に関わるため緊急除外

5. 評価・検査項目

  • 視診:前屈・後屈制限、疼痛回避姿勢
  • 触診:筋緊張・熱感・圧痛点(多くは脊柱起立筋外側)
  • 可動域検査:前屈・伸展・回旋の制限パターン
  • 整形外科的テスト
    • Kempテスト:椎間関節性
    • Patrick(FABER)テスト:仙腸関節性
    • SLR・FNS:神経根症状の有無
  • 神経学的評価:下肢の感覚・反射・筋力

6. フローチャート(見やすい簡略版)

【ぎっくり腰 初期対応フローチャート】

① 急性腰痛を訴える
   ↓
② 発症機転を確認(急な動作・重量物・寝起きなど)
   ↓
③ 神経症状(下肢しびれ・放散痛・筋力低下)の有無を確認
   ↓
【あり】→ 椎間板ヘルニア・狭窄症の鑑別へ(整形外科紹介も検討)
【なし】→ 筋・関節性腰痛として評価継続
   ↓
④ 圧痛部位を確認
  → 脊柱起立筋周囲:筋筋膜性
  → 仙腸関節部:仙腸関節障害
  → 椎間関節付近:関節性腰痛
   ↓
⑤ 疼痛強度の確認
  → 動作困難・体動時激痛 → 安静+冷却・固定
  → 軽度〜中等度 → 緩徐な温熱療法・ストレッチ可
   ↓
⑥ 経過観察
  → 3日以内で軽減:急性筋性腰痛の可能性高
  → 改善なし・増悪 → 医療機関紹介、画像検査へ

7. 施術・管理方針

【急性期(発症~48時間)】

  • 炎症反応期のため安静+冷却+サポート固定(骨盤ベルト)
  • 強いマッサージ・温熱刺激は避ける
  • 寝る姿勢は膝を軽く曲げて横向きが楽
  • 炎症が落ち着くまでは無理な可動は禁忌

【亜急性期(3〜7日)】

  • 軽い温熱療法(ホットパック)
  • 腰背部・股関節周囲の筋緊張緩和
  • 骨盤や胸腰移行部の可動域回復
  • 痛みが軽減すればコルセット下で軽い動作訓練

【回復期(1〜3週)】

  • 体幹安定化トレーニング(腹横筋・多裂筋活性)
  • 姿勢指導・動作フォームの改善(前屈・起き上がり方)
  • 再発防止のための柔軟性改善・生活動作修正

8. 再発予防・生活指導

  • 中腰で物を持たない、膝を曲げてしゃがむ
  • デスクワークでは背もたれに背中を密着
  • 就寝前の軽いストレッチ(腰背部・ハムストリングス)
  • 睡眠・疲労・冷えの管理
  • 体幹筋の維持(週2〜3回の腹横筋トレが効果的)

9. 施術上の注意点

  • 炎症期に強い押圧・矯正・伸展法は禁止
  • 徒手療法は痛みが軽減してから段階的に導入
  • 神経症状・排尿障害・下肢脱力が出たら直ちに医療機関へ紹介
  • **患者教育(動かす恐怖の軽減)**も再発予防の鍵

10. まとめ

ぎっくり腰は多くが自然軽快しますが、
**「放置による慢性化」「誤った動作での再発」**が最も多い失敗要因です。
整骨院では、急性期の適切な安静管理 → 可動域回復 → 体幹再教育 → 生活動作改善
という流れを徹底することで、根本的な改善と再発防止が可能になります。