シンスプリントの鑑別及び診察

1. 定義・概要

シンスプリントとは、脛骨(すねの内側)の骨膜が、過剰な負荷によって炎症を起こす障害です。正式名称は「脛骨過労性骨膜炎」で、ランニングやジャンプを繰り返す競技者に多く発生します。


2. 好発・原因

  • 好発年齢:中高生の陸上部・サッカー・バスケ・ダンス・軍隊訓練など。

  • 原因要素

    • オーバーユース(走行距離・練習量の急増)

    • 下腿の柔軟性低下(特に後脛骨筋・ヒラメ筋)

    • 扁平足・過回内(pronation)傾向

    • 硬い地面での練習、クッション性の低いシューズ

    • 体幹・股関節の安定性不足による荷重不均衡


3. 症状

  • すねの内側(下1/3〜中1/3)に沿った鈍痛・圧痛

  • 初期は「練習中のみ痛い」→ 進行で「練習後も痛い」「安静時痛」へ

  • 局所腫脹・熱感は軽度またはなし

  • 後脛骨筋腱・ヒラメ筋の過緊張がしばしば伴う

  • ジャンプ・ランニング・片脚立ちで痛み再現あり


4. 鑑別診断

疾患名鑑別ポイント
疲労骨折(脛骨)局所の限局性圧痛・叩打痛強い、MRIで骨髄浮腫・骨折線あり
コンパートメント症候群筋腹の張り感・しびれ・運動後の痛み強い
腱炎(後脛骨筋/長趾屈筋)痛み部位がより後方、足関節の動作で誘発強い

5. 評価・所見

  • 圧痛:脛骨内側縁(約5〜10cm範囲)

  • ストレッチ痛:足関節背屈+外反時に出ることが多い

  • 片脚立ちジャンプテスト:痛み再現あり

  • 徒手検査:

    • 回内誘発テスト(過回内で痛み誘発)

    • ホップテスト:軽度でも再現すれば要注意


6. 施術・管理方針(当院プロトコル)

【初期:1〜7日目】

→「痛みを沈める+過緊張筋の緩和」

目的:炎症の鎮静化と筋のリリース施術内容

  • 圧痛部のアイシング(10〜15分)

  • 後脛骨筋・ヒラメ筋・腓腹筋の軽いリリース

  • 足底筋膜のテンション緩和(ローラーや母趾牽引)

  • 足関節のモビライゼーション(距骨滑走制限解除)

  • 微弱電流または超音波(疼痛軽減目的)

  • ストレッチ(痛みの出ない範囲)

    • ヒラメ筋ストレッチ:膝軽屈で足関節背屈保持20秒×3

    • 後脛骨筋ストレッチ:つま先外方向+背屈で保持

セルフケア指導

  • 練習中止(軽度歩行OK)

  • 就寝前アイシング

  • 扁平足の場合:アーチサポート or テーピング


【中期:8〜14日目】

→「再発防止+柔軟性・支持力回復」

目的:アーチサポート力・体幹安定性を回復施術内容

  • 筋リリース継続+軽いアクティブエクササイズ導入

    • チューブ内反運動10回×2

    • つま先上げ(前脛骨筋強化)10回×2

    • 片脚立ち(足底の安定性向上)30秒×3

  • 姿勢・ランニングフォーム指導(過回内制御)

復帰条件

  • 圧痛がほぼ消失

  • 歩行・階段・軽いジョグで痛みなし

  • ストレッチ可動域正常化


【後期:15日目〜】

→「段階的復帰と再発予防」

目的:走行負荷を徐々に戻す段階復帰

  • Day15:ジョグ5〜10分 → 翌日痛みなければ継続

  • Day18〜:ラン+ダッシュ練習(強度50〜70%)

  • Day21〜:通常練習へ(痛み0を確認)

継続ケア

  • 練習後アイシング

  • 週1回リカバリー(リリース+ストレッチ)

  • シューズ・インソール調整


7. 注意点・紹介基準

  • 7日安静でも痛み軽減が乏しい場合 → 疲労骨折疑いで整形外科紹介(MRI推奨)

  • 安静時痛・夜間痛あり → 画像検査必須

  • 痛みが慢性化する前に早期治療が重要


8. 患者への説明(例)

「走りすぎや足の使いすぎで、すねの骨の膜に炎症が起きています。1週間はしっかり休んで、ストレッチやアイシングを中心に治します。

その後、段階的に練習を再開していけば、多くの方は再発せず復帰できます。」