五十肩、四十肩の鑑別及び診察

1. 定義・概要

五十肩(frozen shoulder, adhesive capsulitis)は、
肩関節の炎症と関節包の拘縮により、疼痛と可動域制限を呈する疾患群

正式には「肩関節周囲炎」と呼ばれ、年齢層によって

  • 40代発症 → 四十肩
  • 50代発症 → 五十肩
    と俗称されます。

明確な外傷がなく、肩の動き全般(特に外転・外旋)が制限されるのが特徴です。


2. 病期分類(3期に分けると理解しやすい)

病期時期病態・特徴主な対応
① 炎症期(急性期)発症〜約3ヶ月炎症・疼痛強く夜間痛あり安静・冷却・固定中心
② 拘縮期(慢性期)3〜9ヶ月疼痛減弱するが可動域制限が残る温熱・ストレッチ導入
③ 回復期(改善期)9ヶ月〜1年可動域改善・再発防止期運動療法・姿勢矯正

3. 原因・病態生理

  • 肩関節包・滑膜・腱板・烏口上腕靭帯などの炎症・線維化
  • 関節液減少・滑膜癒着による関節包の拘縮
  • 姿勢不良(猫背・巻き肩)に伴う肩甲上腕リズムの崩れ
  • 血行障害・加齢による組織変性
  • 糖尿病・甲状腺疾患・心疾患などが背景にあることも多い

4. 主な症状

  • 肩の動作時痛・夜間痛(寝返り困難)
  • 服の着脱・髪を結う・背中をかく動作が困難
  • 動かさないとさらに動かなくなる「拘縮スパイラル」
  • 進行すると筋萎縮(棘上筋・三角筋)を伴う

5. 鑑別疾患

鑑別疾患特徴的所見鑑別ポイント
腱板損傷外転痛・夜間痛・力が入らない明確な外傷歴あり、MMT低下
石灰沈着性腱炎急性の激痛、レントゲンで石灰影数日で急性炎症ピーク
肩峰下滑液包炎安静時痛あり、滑走痛圧痛が滑液包部中心
上腕二頭筋長頭腱炎溝部圧痛・肘屈曲で痛みSpeedテスト陽性
頚椎症性神経根症肩から腕の放散痛・しびれSpurling陽性・頚椎可動制限あり

6. 評価・徒手検査

  • 視診:左右差、肩の挙上制限、姿勢評価(猫背・肩前方変位)
  • 触診:三角筋前部・棘上筋・肩峰下滑液包・関節前面圧痛
  • 可動域検査:特に外転・外旋・内旋の制限を評価
  • スペシャルテスト
    • Painful Arc(60〜120°で痛み)
    • Apley’s scratch test(結帯動作)
    • Speedテスト(上腕二頭筋長頭)
    • Drop Armテスト(腱板断裂との鑑別)

7. フローチャート(診察〜施術)

【五十肩・四十肩 鑑別・施術フローチャート】

① 肩の痛み・可動域制限を訴える
   ↓
② 外傷歴の有無を確認
  → あり:腱板損傷・骨折などへ鑑別
  → なし:肩関節周囲炎を疑う
   ↓
③ 夜間痛の有無・動作痛の範囲を確認
   ↓
④ 外転・外旋制限の有無を評価
  → 制限あり:肩関節包拘縮疑い
   ↓
⑤ 鑑別テスト
  → Drop Arm・Speed・Apley’s scratch・頚椎スクリーニング
   ↓
⑥ 病期を判断
  → 急性期:炎症主、夜間痛強
  → 慢性期:拘縮主、痛み軽度
   ↓
⑦ 病期に合わせた施術選択
  → 急性期:安静+冷却+微弱電流療法
  → 慢性期:温熱+ストレッチ+関節モビリゼーション
   ↓
⑧ 回復期:運動療法+姿勢改善+筋再教育

8. 施術方針

【急性期】

  • 冷却(アイスパック)+安静(スリング支持)
  • 強いマッサージ・ストレッチは禁止
  • 微弱電流・超音波・干渉波など鎮痛中心
  • 寝姿勢指導:仰臥位時に肘下へクッション

【拘縮期】

  • 温熱療法(ホットパック・超音波)
  • 軽度のストレッチ(振り子運動・壁這い運動)
  • 肩甲胸郭リズムの再教育
  • 関節モビリゼーション(Grade Ⅰ→Ⅲへ段階的に)

【回復期】

  • 筋力トレーニング(インナーマッスル中心)
  • 姿勢矯正(胸椎伸展・肩甲骨後退訓練)
  • 再発防止のセルフエクササイズ指導

9. セルフケア・生活指導

  • 無理なストレッチや強引な可動は逆効果
  • 湯船で温めた後にゆっくり肩を回す
  • デスクワーク中は猫背にならないよう注意
  • 就寝時は肩を冷やさず、肘を支える姿勢で寝る
  • 改善まで6ヶ月〜1年を要する場合が多いことを説明

10. 注意点(臨床でのリスク管理)

  • 糖尿病・甲状腺疾患の既往がある場合、治癒遅延に注意
  • 肩の外転・外旋痛+力が入らない場合は腱板断裂疑い
  • 夜間痛が強く、安静でも改善しない場合は整形外科紹介
  • 「痛みがなくなっても動かさない」ことで拘縮が再燃するため、
     段階的運動指導が必須

11. まとめ

五十肩・四十肩は、
単なる「加齢現象」ではなく、関節包拘縮と筋機能低下の複合病態
整骨院で重要なのは、

  • 「病期に合わせた施術」
  • 「動かさない期間を最小限に」
  • 「再教育(姿勢・肩甲骨リズム)」
    の3点です。