Ⅰ】定義・基礎知識
● 定義
母趾(足の親指)の基節骨が外側(第2趾方向)へ偏位し、中足骨頭が内側(内反)へ突出する変形性疾患。
母趾外反角(HVA: hallux valgus angle)が 15°以上 で外反母趾と定義される。
● 発症機序
- 靴による慢性的な圧迫(特にハイヒール・先細シューズ)
- 扁平足(内側縦アーチの低下)による第1中足骨の内反
- 横アーチの崩れ
- 遺伝的素因(母系遺伝傾向)
- 女性ホルモンの影響による靭帯弛緩
【Ⅱ】主な症状
- 母趾MTP関節の突出(内側膨隆)と痛み
- 靴擦れ、水疱形成
- 第2趾とのクロス変形(重なり趾)
- 歩行時の蹴り出し痛、前足部痛(transfer metatarsalgia)
- 進行で母趾可動域制限、胼胝・タコ形成
🦶 外反母趾(Hallux Valgus)診察・鑑別・施術フローチャートまとめ
【Ⅰ】診察の基本ステップ
① 主訴の確認
- 親指の痛み・変形・靴との摩擦・歩行時の違和感などを聴取
- 発症時期、使用靴の種類、既往歴(リウマチ・痛風など)を確認
② 視診
- 母趾の外反変形、内側の突出、クロス変形(重なり趾)を観察
- 荷重時と非荷重時でのアーチ形状を比較
- 胼胝・タコの部位を確認(過剰荷重部の推定)
③ 触診
- 第1中足骨頭の圧痛、熱感、腫脹を確認
- 背側・底側のどちらに痛みが強いかで疾患を推定
- 関節可動域(MTP背屈・底屈)を評価
④ 機能評価
- 母趾外反角(HVA)、中足骨間角(IMA)を計測
- アーチ構造(縦アーチ・横アーチ)の崩れをチェック
- 立位時の重心線・内反膝・扁平足の有無を確認
【Ⅱ】外反母趾 疑いまでの流れ
Step 1:痛みの部位確認
↓
→ MTP関節内側 → 【外反母趾】の可能性
→ 母趾背側中心 → 【強剛母趾】の可能性
→ 母趾底側中心 → 【種子骨障害】の可能性
→ 急性の発赤・腫脹 → 【痛風発作】を疑う
Step 2:変形角度を評価
↓
→ HVA < 15°:正常 ※HVA (Hallux Valgus Angle ハルクス・バルグス・アングル)
=母趾外反角 母趾が外側へ変形している角度の事。
→ 15~20°:軽度外反
→ 20~40°:中等度
→ >40°:重度
Step 3:機能性 or 構造性を判定
↓
→ 扁平足・アーチ低下が関与 → 機能的外反母趾
→ 骨性変形・脱臼を伴う → 構造的外反母趾
Step 4:重症度に応じた方針決定
↓
| 重症度 | 主な特徴 | 治療方針 |
|---|---|---|
| 軽度 | 見た目の変形のみ | 靴指導・テーピング・足趾運動 |
| 中等度 | 疼痛・胼胝あり | インソール・足底筋訓練・保存療法 |
| 重度 | 脱臼変形・歩行障害 | 整形外科紹介(骨切り術検討) |
【Ⅲ】鑑別疾患
| 疾患名 | 特徴 | 鑑別ポイント |
|---|---|---|
| 外反母趾(Hallux Valgus) | 母趾MTP関節の内側膨隆・外反 | 第1中足骨内反+母趾外反角増大 |
| 強剛母趾(Hallux Rigidus) | MTP関節の変形性関節症 | 伸展制限と関節裂隙狭小、骨棘形成 |
| 痛風性関節炎 | 発作的疼痛・発赤腫脹 | 急性発症・血清尿酸値↑・母趾MTP発赤 |
| リウマチ性母趾変形 | 両側性・他関節炎あり | MTP亜脱臼・朝のこわばり |
| 種子骨障害 | 母趾底側の痛み | 背側ではなく底側圧痛 |
| モートン病 | 第3・4趾間の神経痛 | 趾間で放散痛、Tinel徴候陽性 |
【Ⅳ】評価項目(臨床検査・画像)
| 評価項目 | 内容 | 目安値 |
|---|---|---|
| HVA(母趾外反角) | 第1中足骨軸と母趾基節骨軸のなす角 | 正常:<15°、軽度:15–20°、中等度:20–40°、重度:>40° |
| IMA(第1・2中足骨間角) | 第1・2中足骨軸の角度 | 正常:<9° |
| M1-M2関節可動域 | 背屈・底屈の制限 | 強剛母趾との鑑別に重要 |
| 立位撮影 | 重心線・アーチの確認 | 荷重位での評価が必須 |
【Ⅴ】保存療法(整骨院で行えるアプローチ)
1️⃣ 局所施術
- 第1中足骨頭周囲の軟部組織リリース
- 短母趾外転筋・長母趾屈筋の筋緊張緩和
- 足底筋群(特に内在筋)の筋再教育
- 距骨下関節・舟状骨周囲のモビライゼーションで内側アーチ再構築
2️⃣ テーピング
- 母趾外転筋をサポートする形(母趾を軽く外転・内旋方向へ牽引)
- 横アーチ補助テーピングで第2~4中足骨頭を軽く締める
- 巻き過ぎによる循環障害に注意
3️⃣ 足底板・インソール
- 横アーチパッドまたはメタターサルパッドの使用
- 縦アーチを補助するセミリジッドタイプ推奨
- 足趾がしっかり接地できる靴選び指導
4️⃣ 運動療法
- タオルギャザー、グーチョキパー運動
- 母趾外転筋の再教育トレーニング
- ふくらはぎ〜足底の連動(後脛骨筋・腓骨筋群)強化
【Ⅵ】施術時の注意点
| 注意点 | 解説 |
|---|---|
| 過度の矯正は禁忌 | 炎症期に無理な牽引や外転は悪化を招く |
| 痛風・RAの除外必須 | 炎症性疾患では施術禁忌 |
| 靴圧再評価 | テーピングだけでは効果持続しないため、靴環境の是正を指導 |
| 加齢変形への過剰期待は避ける | 構造変形が高度な場合、保存療法の限界を説明する必要あり |
| 足部全体のアライメント重視 | 母趾単独ではなく、アーチ全体の崩壊を見極める |
【Ⅶ】重症度別 方針まとめ
| 重症度 | 角度 | 方針 |
|---|---|---|
| 軽度(HVA < 20°) | 美容的変形のみ | 靴指導・テーピング・筋トレ |
| 中等度(20–40°) | 疼痛・胼胝あり | 保存療法+インソール+足底筋再教育 |
| 重度(>40°) | 脱臼変形・疼痛強 | 整形外科紹介(骨切り術など)+再発予防運動指導 |
【Ⅷ】セルフケア・再発予防指導
- 先端の狭い靴の着用を避ける
- ヒール高 3cm以下推奨
- 歩行時、母趾の蹴り出し意識
- タオルギャザー・足趾グーチョキパーを習慣化
- 足底筋群・ふくらはぎの柔軟性維持
【Ⅸ】まとめ(臨床の要点)
- 外反母趾は「靴+アーチ崩壊+遺伝」の三要因
- 鑑別では強剛母趾と痛風発作を見逃さない ※問診時、既往歴や通院歴を必ず確認
- 施術は「矯正」より「支持と再教育」が主軸
- テーピングとインソールはアーチ再建+疼痛軽減の目的で使用
- 慢性例では足底筋力再教育が再発防止の鍵
