1. 定義・概要
腱鞘炎(tenosynovitis)は、腱を包む腱鞘(けんしょう)に炎症が起こる疾患で、
繰り返しの動作や過度の使用により、摩擦・浮腫・炎症が生じるのが特徴です。
- 手首 → **ド・ケルバン病(狭窄性腱鞘炎)**が代表的
- 足首 → 後脛骨筋腱鞘炎・長母趾屈筋腱鞘炎・腓骨筋腱鞘炎などが多い
【手首の腱鞘炎】
2. 主な原因とメカニズム
- 手や指の繰り返し動作(スマホ・育児・事務・美容師など)
- 手首の過伸展・回外位の持続
- ホルモンバランスの変化(出産前後・更年期)
- 手関節周囲のアライメント不良や橈骨茎状突起部の機械的刺激
3. 主な疾患と鑑別
| 疾患名 | 病態 | 特徴・鑑別ポイント |
|---|---|---|
| ド・ケルバン病 | 長母指外転筋・短母指伸筋腱の狭窄性腱鞘炎 | 母指側の手首痛、Finkelsteinテスト陽性 |
| ばね指(弾発指) | 指屈筋腱の通過障害 | 指の引っかかり感、掌側の圧痛 |
| 手根管症候群 | 正中神経の圧迫 | 母指・示指・中指のしびれ |
| 橈骨遠位端骨折・舟状骨骨折 | 外傷歴あり | 明確な腫脹・可動痛・圧痛点異常 |
4. 主な所見・検査
- 圧痛:橈骨茎状突起部(親指側)
- 腫脹・熱感:軽度〜中等度
- Finkelsteinテスト陽性(母指を握り手首を尺屈)
- ROM制限:母指伸展・外転で痛み誘発
- 画像:超音波で腱鞘肥厚、MRIで滑膜炎所見を確認可能
5. 手首腱鞘炎のフローチャート
【手首の痛み → 鑑別・施術フローチャート】
① 手首痛を訴える
↓
② 発症の経緯(繰り返し動作/外傷/出産後)を聴取
↓
③ 圧痛部位の確認
→ 橈骨茎状突起:ド・ケルバン病
→ 掌側MP関節部:ばね指
→ 手根部中央:手根管症候群
↓
④ Finkelsteinテスト実施
→ 陽性:狭窄性腱鞘炎確定的
↓
⑤ 炎症期の判断
→ 腫脹・熱感あり → 安静+固定+冷却
→ なし → 温熱・軽運動療法導入
↓
⑥ 経過観察
→ 改善なし・再燃繰り返す → 整形外科連携 or 注射療法検討
6. 施術・管理指針(手首)
【急性期】
- アイシング・安静・固定(サポーター・テーピング)
- 振動刺激やマッサージは避ける
- 重症例は短期間のスプリント固定を検討
【亜急性期〜回復期】
- 軽温熱療法・ストレッチ(母指伸筋群・橈側手根伸筋群)
- 前腕回外筋群・回内筋群のリリース
- 手関節アライメント修正(橈骨+舟状骨の安定化)
- 動作指導:「親指でつまむ」動作の抑制
【再発予防】
- スマホや育児動作の姿勢改善
- 手関節〜母指のリラックス動作訓練
- 筋膜リリース+軽負荷トレ(母指外転筋)
【足首の腱鞘炎】
7. 主な原因・病態
- 長時間の歩行・ランニング・スポーツ(特に内反動作)
- シューズの不適合(硬すぎる・踵が高いなど)
- アライメント異常(回内足・扁平足・外反母趾など)
8. 主な疾患と鑑別
| 疾患名 | 病態 | 特徴・鑑別ポイント |
|---|---|---|
| 後脛骨筋腱鞘炎 | 内果後方の疼痛 | 扁平足傾向、足底のだるさ |
| 長母趾屈筋腱鞘炎 | 足趾屈曲動作で痛み | バレエ・ジャンプ競技に多い |
| 腓骨筋腱鞘炎 | 外果後方痛 | ランナー・外反動作で悪化 |
| アキレス腱周囲炎 | 踵後部痛・腫脹 | 靴の当たり・急な運動負荷 |
9. 足首腱鞘炎のフローチャート
【足首の痛み → 鑑別・施術フローチャート】
① 足関節痛を訴える
↓
② 痛みの部位を確認
→ 内果後方:後脛骨筋腱
→ 外果後方:腓骨筋腱
→ 母趾屈曲線上:長母趾屈筋腱
↓
③ 圧痛・腫脹・熱感を確認
↓
④ 動作確認
→ 回内・回外・背屈・底屈のどれで誘発するか
↓
⑤ 炎症期判定
→ 明確な腫脹・熱感 → 安静+冷却+足底支持
→ 軽度 → 温熱・軽い可動訓練開始
↓
⑥ 扁平足・外反母趾などのアライメント評価
↓
⑦ 必要に応じて足底板・テーピング・靴指導
10. 施術・管理方針(足首)
【急性期】
- 冷却+安静+荷重制限(松葉杖・サポーター)
- アーチサポートで腱負担軽減
- 矯正インソールでアライメント安定
【回復期】
- 温熱療法・超音波療法・筋膜リリース
- 足関節周囲筋(後脛骨筋・腓骨筋・下腿三頭筋)の柔軟性向上
- 足部固有筋トレーニング(タオルギャザー・足趾グーパー)
【再発予防】
- 扁平足の矯正・靴選びの改善
- スポーツ時の準備運動徹底
- 足首回内・外反ストレスのコントロール
- 足底アーチ保持筋(母趾球〜踵)の再教育
11. 注意点(共通)
- 炎症期はマッサージやストレッチを避ける
- 繰り返し動作の制限と休息指導が最優先
- 神経症状(しびれ・放散痛)出現時は整形外科へ紹介
- 慢性化例では滑膜肥厚が強く、徒手療法よりも動作修正が効果的
12. まとめ
腱鞘炎は一見「使いすぎの炎症」と捉えられがちですが、
実際は**使い方のアンバランス(動作の誤り・姿勢の偏り)**が本質的な原因です。
整骨院では、
「痛みの抑制 → 機能回復 → 再発防止(動作・環境改善)」
という三段階の戦略が重要です。
