【1】基礎知識
● 定義
足底筋膜炎とは、踵骨から足指にかけて張る足底腱膜(plantar fascia)に微細損傷や炎症が生じる障害。
主に踵骨付着部付近の疼痛が特徴。
起床時や長時間の歩行後に強い痛みが出やすい。
● 原因
- 長時間の立ち仕事・ランニングなどによる過度な牽引ストレス
- 扁平足・過回内による足底筋膜の過伸張
- 加齢・肥満による衝撃吸収力低下
- ふくらはぎ(下腿三頭筋)の硬さ
- 不適切な靴(クッション性不足・サイズ不良)
● 症状
- 朝の一歩目で踵の強い痛み
- 安静で軽快、歩行開始で再燃
- 踵内側前方の圧痛点
- 進行で慢性化 → 足底全体の放散痛や歩行障害
【2】診察・評価の流れ
① 主訴・問診
- 「朝起きた時が一番痛い」「歩き始めが痛い」など典型的
- 運動量・靴の種類・床環境(硬い床での作業)を確認
② 視診
- アーチの低下(扁平足傾向)
- 踵骨外反・過回内姿勢の有無
- ふくらはぎやアキレス腱の緊張状態を観察
③ 触診
- 踵骨内側突起前方に限局した圧痛(最重要)
- 足底筋膜の走行に沿った硬結や緊張
- 長母趾屈筋・後脛骨筋の付着部も確認
④ 機能評価
- 足関節背屈可動域の低下
- 下腿三頭筋・足底筋膜の伸張痛
- 片脚立ちでの疼痛誘発(体重負荷テスト)
【3】診断フローチャート(文字形式)
Step 1:疼痛部位の確認
↓
→ 踵骨内側前方に限局 → 足底筋膜炎の可能性高
→ アキレス腱付着部 → アキレス腱炎
→ 踵骨後方中央 → 滑液包炎(レトロアキレスバ―サ炎)
→ 足底中央部 → 足底線維腫症・神経障害など
Step 2:疼痛発生タイミング
↓
→ 朝起きた直後に痛い → 足底筋膜炎典型
→ 運動中の痛み → アキレス腱炎、疲労骨折も鑑別
Step 3:誘発・動作評価
↓
→ 足関節背屈+足趾背屈で痛み → 筋膜由来
→ ふくらはぎストレッチで痛み増悪 → 下腿三頭筋の牽引関与
Step 4:重症度分類(臨床的)
| 区分 | 主な特徴 | 状態 |
|---|---|---|
| 軽度 | 朝痛のみ | 筋膜軽度炎症・可逆性 |
| 中等度 | 歩行開始時痛・長時間歩行で増悪 | 繊維変性+微小断裂 |
| 重度 | 安静時痛・歩行困難 | 慢性炎・石灰沈着・骨棘形成 |
【4】鑑別疾患
| 疾患名 | 主な痛み部位 | 鑑別ポイント |
|---|---|---|
| 足底筋膜炎 | 踵内側前方 | 朝の一歩痛、限局圧痛 |
| アキレス腱炎 | 踵後面~腱部 | 腱中央部圧痛、背屈痛 |
| 踵骨疲労骨折 | 踵全体・荷重痛 | 圧痛広範、X線orMRI確認 |
| 踵骨滑液包炎 | 踵後上方 | 靴圧で痛み、腫脹あり |
| 神経絞扼(Baxter神経) | 足底外側 | 夜間痛、放散痛あり |
【5】整骨院での施術・保存療法
1️⃣ 炎症期(発症初期~疼痛強い時期)
- 無理なマッサージやストレッチは避ける
- 踵への荷重軽減:厚めインソール・踵パッド使用
- 冷却+微弱電流(鎮痛目的)
- 靴の見直し(クッション性・ヒール高)
2️⃣ 回復期(痛み軽減~機能改善期)
- 足底筋膜リリース(踵~母趾球まで)
- 後脛骨筋・腓腹筋ストレッチ
- 足趾筋トレーニング(タオルギャザー・足趾グーチョキパー)
- 距骨下関節・中足骨間モビライゼーション
- テーピング(足底筋膜の牽引緩和+アーチサポート)
3️⃣ 維持・再発予防期
- 足底アーチ保持のためのインソール常用
- 下腿三頭筋・足底筋膜の柔軟性維持
- 長時間の立ち姿勢・硬い床での作業を回避
- 体重管理(BMI正常化)
【6】施術時の注意点
| 注意点 | 解説 |
|---|---|
| 炎症期の過剰刺激は禁止 | 微小断裂が悪化する可能性あり |
| 強いストレッチ禁忌 | 炎症反応を再燃させるリスク |
| 下腿筋群の柔軟性確認必須 | アキレス腱短縮が再発因子 |
| アーチ全体を評価 | 扁平足・過回内を見逃さない |
| シューズ・インソール指導を徹底 | 再発予防の鍵 |
【7】セルフケア指導
- 朝起きる前に、足首を軽く上下に動かす(ウォーミングアップ)
- 冷却:入浴後や運動後に5〜10分
- 足裏ゴロゴロ運動(テニスボール・ゴルフボール)
- タオルギャザー:1日2〜3セット
- ヒール高2〜3cm・柔らかい靴底の靴を推奨
【8】臨床の要点まとめ
- 足底筋膜炎は「牽引ストレス × アーチ低下 × 下腿筋緊張」が主因
- 早期なら保存療法で改善率90%以上
- 慢性化例では筋膜の線維化・骨棘形成に注意
- 整骨院での目的は「疼痛軽減+再発予防+歩行動作再教育」
【9】治療経過の目安
| 期間 | 目標 | 主な介入 |
|---|---|---|
| 1〜2週 | 炎症抑制 | 冷却・安静・荷重軽減 |
| 3〜6週 | 機能回復 | リリース・ストレッチ・筋再教育 |
| 7週〜 | 再発予防 | インソール・歩行改善・柔軟性維持 |
