1. 基礎知識
定義
胃の内容物(胃酸や食物)が食道に逆流し、食道粘膜に炎症を起こす状態。
一時的な胸焼けとは異なり、慢性化しているものを「逆流性食道炎」と呼ぶ。
原因メカニズム
- 下部食道括約筋(LES)の機能低下
- 食道裂孔ヘルニア
- 胃内圧の上昇(肥満、妊娠、姿勢不良、腹圧増加)
- 胃排出遅延(暴飲暴食、脂肪食過多)
- 加齢による平滑筋の弛緩
主な症状
- 胸焼け・みぞおちの痛み
- 喉の違和感(咽喉頭逆流症)
- 口の中の酸味・苦味
- 慢性的な咳、声枯れ
- 仰向けで悪化、前屈で悪化
- ゲップが多くなる
2. 鑑別診断
| 鑑別疾患 | 特徴・鑑別ポイント |
|---|---|
| 狭心症・心筋梗塞 | 胸の締め付け、放散痛、労作で悪化。緊急性あり。 |
| 機能性ディスペプシア | 内視鏡で異常なし。胃もたれ主体。 |
| 胃潰瘍・十二指腸潰瘍 | 空腹時痛、夜間痛。 |
| 食道アカラシア | 嚥下困難、体重減少。 |
| 食道がん | 長期間の嚥下困難、血性嘔吐。 |
3. 問診時のポイント
- 症状出現のタイミング:食後?夜間?
- 姿勢との関連:前屈や仰向けで増悪するか?
- 食生活習慣:脂っこい食事・コーヒー・アルコール・喫煙の有無
- 既往歴:胃潰瘍・胃手術・妊娠・肥満
- 薬歴:NSAIDs、カルシウム拮抗薬、抗コリン薬など
4. 診察・評価
視診・触診・姿勢評価
- 猫背・円背姿勢 → 腹圧上昇、胃の圧迫
- 胸郭可動性低下 → 横隔膜運動制限
- 腹部膨満の有無
- 胸部圧痛 → 肋間神経痛との鑑別
整骨院などでの姿勢・筋緊張評価ポイント
- 胸椎後弯の程度
- 横隔膜・腹直筋・腹斜筋の緊張
- 背部筋(広背筋、脊柱起立筋)の硬直
5. フローチャート:評価・対応の流れ
主訴:胸焼け・みぞおちの痛み・喉の違和感
↓
問診:症状のタイミング・食生活・姿勢・服薬歴確認
↓
重症兆候(嚥下困難・血性嘔吐・体重減少)があれば → 医療機関へ紹介
↓
姿勢・筋緊張・胸郭可動性を評価
↓
【機能的因子の改善アプローチ】
├ 胸郭・肋椎関節の可動性向上
├ 横隔膜のリリース
├ 背部筋群・腹部筋群のバランス調整
↓
【生活指導】
├ 食後2時間以内は横にならない
├ 前屈姿勢を避ける
├ 脂質・刺激物の摂取制限
├ 枕の高さ調整(頭部挙上睡眠)
↓
経過観察・セルフケア指導
6. 機能的アプローチ(施術の考え方)
目的: 胃酸逆流を防ぐために、
・腹圧バランスの正常化
・横隔膜・胸郭の可動性改善
・姿勢の再教育
施術例(一般的考え方)
- 横隔膜リリース:呼吸運動を促し腹腔圧を整える
- 胸椎モビライゼーション:背部伸展可動性改善
- 腹直筋・腹斜筋の緊張緩和
- 骨盤前傾を意識した姿勢指導
7. セルフケア・生活改善指導
- 食後はすぐに横にならない(2〜3時間は起座姿勢)
- 枕を高くして上体を少し起こして睡眠
- 脂っこい食事・甘い物・アルコール・炭酸飲料を控える
- 喫煙習慣の見直し
- 適度な運動(腹圧コントロール)
8. 予後と注意点
- 生活習慣改善で軽快するケースも多い
- 症状が長期化・再発を繰り返す場合は、内視鏡検査が必要
- 整骨院では内臓疾患の「疑い」を見逃さない姿勢が重要
9. 患者に伝えるポイント(例)
- 「姿勢の崩れや呼吸筋の硬さが胃の圧を高めることがあります」
- 「一時的に楽でも、姿勢習慣を直さないと再発しやすいです」
- 「違和感や痛みが続くときは、胃カメラなどの検査を受けましょう」
